大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和43年(く)150号 決定

少年 Y・G(昭二六・七・一四生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は右少年の法定代理人親権者父Y・Z、母Y・T子共同作成名義の抗告申立書記載のとおりであるから、これをここに引用し、これに対し次のように判断する。

所論は要するに原決定には処分の著しい不当があるというに在るので一件記録を精査して案ずるのに、少年の生活歴、素質、性格、家庭環境、保護関係等は原決定がその「保護処分に付した事由」中に正しく認定記載したとおりであつて、殊に少年はシンナーの長期乱用による慢性中毒症の疑いがあり、更に精神分裂症の疑いもあつて、これらに対する対策治療はいずれも在宅のままでは望み得ず、少なくとも精神病院に入院させることが望ましいのであるが、記録により認められる家庭の事情よりしてはこのことは著しく困難であると認められるので、この際は少年を医療少年院に収容し、シンナーを禁断させると共に、医学的監理下において精神分裂病についても十分な観察を加えこれが対策を講ずることこそ本少年の将来の健全な育成のため採るべき最良の方策と考えられる。しからばこれと同趣旨に出で本「少年を医療少年院に送致する。」との決定を為した原決定は誠に相当であつて何等処分の著しい不当はないから、所論は理由がない。

よつて本件抗告は理由がないから、少年法第三三条第一項少年審判規則第五〇条の規定に従いこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 石井文治 判事 山田鷹之助 判事 山崎茂)

参考 原審決定(東京家裁 昭四三(少)一五五四九号 同一六一六六号 昭四三・一二・三決定)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

一、事実

当裁判所の認定した少年の非行事実は、司法警察員作成に係る昭和四二年一〇月九日付少年事件送致書記載の犯罪事実のとおりであり、その虞犯事実は司法警察員作成に係る昭和四三年一一月一五日付少年事件送致書記載の審判に付すべき事由と同一である。

二、適条

刑法二四九条、五〇条

少年法三条一項三号イ、ロ、ニ

三、上記保護処分に付した事由

少年は中学在学中から学内の不良グループと交際徒遊し、不良行為があり、中学卒業後は中学在学中から始つたボンド、シンナー遊びが習癖化し、定職に安定せず、徒食して不良交遊を拡げ、家出、無断外泊していたものである。現在シンナー長期濫用による慢性中毒症の疑いがあり、また鑑別結果によれば精神分裂病の疑いがありとされている。少年は知的に劣り、しかも内向的で社会性に乏しい性格で無口、劣等感もあつて学校生活や友達仲間に適応できないできている。一方家庭は少年に対する配慮を欠き、ことに父親は酒乱気味であり、家庭は本少年に対し何等の措置をも講じえず、手をやいているに過ぎない。

少年に対しては、シンナーを禁断させることが、まず必要であり、精神分裂病を疑われる状態なので、医学的監理のもとに、十分の経過観察がのぞまれる。

以上のような事由により、少年に対しては少年法二四条一項三号を適用し、医療少年院に送致すべきものと考え、主文のとおり決定した次第である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例